【BC SHORTが生まれた瞬間】(写真・文:yujin)
ときは2018冬、ところは北アルプスのおひざ元、松本…。
家のすぐ前を一時間に一本の頻度で大糸線が通り過ぎる。
未明の始発ともなると、凍った電線とパンタグラフとの摩擦からか、
「シューッ、シューッ」と火花を散らす音は、
すっかり閉ざされた厳冬期のいわば風物詩。
前回の「BC SHORTが生まれるまで
その2」からおよそ一年が経ってしまった。
自分事だが、一日1.5食平均の生活がもう15年くらいつづいている。
昼には食べてもオニギリ一つ、
夜はBEERとWINEと好きなものを好きなだけという食事スタイルである。
ただ、二人の子供もうえは高校生と成長するにつれ、
食べる量も増えれば好みもあるので、
自分が好きなものだけとはさすがにいかず、
週5で夕食当番をしている身として献立にはけっこう気を遣っているのだ。
ちなみに昨夜は、豚ひき肉と春雨とネギの炒め物に漬物、
そしてご飯に味噌汁。
あと、オメガ3系の良質な油はなるべく摂るようにしている。
たとえば、亜麻仁オイルやエゴマ油。
人間は、良質の油と水と腸が大事だとおもっている!
良質な油を摂って脂肪を燃焼させやすい体にすることと、
腸が喜ぶ食生活をすること。
話が逸れたついでに触れておくとすると、
作シーズンは山仲間からいただいた野生のシカ肉やイノシシ肉を焼肉にしたり、
またはスーパーで手に入れた牛肉といっしょに
燻製にしたりしたものをザックに忍ばせ、
あとは水だけ持って北アルプスの後立山連峰を縦走したりした。
脂肪を効率よく燃焼させてエネルギーとして使う、
ファットバーニングの身体に興味がわいたからだ。
ある説によれば、
そもそも人間の体は糖質をエネルギー源としてつくられていないそうである。
人類400万年もの間、じつは体に蓄えた脂質をエネルギー源として生きてきた。
穀物を栽培してその糖質からエネルギー得るようになったのは、
今からたった1万年前ということ。
現代の精神的なものをふくめたあらゆる病気、肥満などが、
それら砂糖や炭水化物を減らすことで改善されるデータもあるほどだ。
こうして考えると、
わたしたちは、もはや大洗脳社会に生きているといってもいいだろうか。
大事なのは、あらゆる情報を取捨選択する術を身につけ、
なおかつ自分で考えて試してみることだと思っている。
それには、山のような精神や体が研ぎ澄まされるフィールドはもってこいである。
先の水と燻製の話にもどるが、いやはや不思議というかなんというか、
登り返しで力が入らなくなってくるなどまだまだ検証の余地はたくさんあるが、
実際は水だけで10hは行動できたということ。
しかも、消費エネルギーが顕著な山の縦走だ。
まだまだ普段の食生活をただしていけば、さらに動けるはず。
と言いつつも、自分自身、お米が大好き。
山にときおり持っていくオニギリや、
夕食に少量だけどいただく白米はやはり外せない。
正月の雑煮なんて大好物である。
今後もバランスを大事に美味しくいただいていこうと思っている。
また、文章を書くのはどうしても空腹を感じるので、
毎朝飲んでるネパール珈琲に、
グラスフェッドのギー(ないときはMCTオイル)を入れて楽しんでいる。
というのは空想で、ネパール珈琲を切らしてるので、
最近はもっぱら長らくお世話になってきたゴールドブレンドだ(笑)
余談だが、ネパール珈琲とは、
ご縁があって文字通りネパールに住む生産者から、
今後YAMANOVA(山や冒険をテーマとしたコミュニティ)
が直接に取り引きをして、販売するという素敵なプロジェクトである。
予想どおり前置きがながくなった。
さて、BC SHORTの話題。
やや大げさなタイトルだが、
ええい遠慮せず書いてやれい~!とばかりに、
「BC SHORTが生まれた瞬間」などと見出しをつけてみた。
結果からいうと、やり始めて2シーズン目である2017年2月に、
厳冬期常念岳ソロBC SHORTを無事に達成した。
その日を、「BC SHORTが生まれた瞬間」とさっき決めた(笑)
その日は晴天でまたとない厳冬期(2月までそういうらしい)の
ラストチャンスだった。
距離は、安曇野にあるほりで~湯の先の閉ざしている林道ゲートからスタートし、
常念岳東尾根をひたすら詰める山頂の往復約22㎞。
累積標高差は±2,100m。
ソロではペースが落ちることがおおいので、
4年前の0300スタートより一時間早めた0200スタートとした。
ゲート先からは例年雪があるのでスキー&シールでのハイクアップで始めるのだが、
あいにく雪が少なく、ブーツでそのまま尾根の取りつきまで歩き出す。
ところが、予想外に融雪がすすんでいたので、
朝令暮改よろしくさらに林道を歩き、まゆみ池の上の林道から東尾根に合流する。
じつは、このとき林道ショートカットで谷筋をつめたときに猛ラッセル
(深い雪のなかを自力で登る)に遭ったかとおもえば、
分岐を間違えたりで30分ほどロスをする。
すくなくとも、自分にとっては里山でブンブンSHORT SKIしてるだけじゃなく、
ビッグマウンテンもやれることを証明するべく挑んだ、
BC SHORTでの厳冬期常念岳1DAYという未知のチャレンジだったし、
このスタイルで一つの結果を残したいとそれまで孤軍奮闘やってきた。
想定外はつきものとはいえ、
たとえ30分であろうとタイムロスはけっこうなネガティヴ要素である。
Tree line(森林限界)約2,200mまで、
経験から5hくらいで行ければいいさ…
とあらゆる邪念といっしょに”いなす”ことにする。
余談2だが、わたしはひどい花粉症で、
もう20年以上まえだと思うが、あるときこの“いなす”ことをおぼえてからは、
まったくマスクもなにもせず花粉症から解放された。
もちろん、涙目でクシャミの波状攻撃にたまに襲われることがあろうと、
わたしは花粉をいなすことに成功しているとおもっている。
“いなす”って心の技術だな(笑)
じつは、この2週まえに当東尾根をやはり同スタイルのソロで試していた。
執拗なラッセルと中途半端な気概もあっただろうか、
目標の1,955mの尾根上にある小ピーク手前で引き返すという体たらく。
ただし、木立ちと急斜面の長い尾根を圧倒的な速さで
SKI DOWNが可能であると経験できたことは、相当な自信につながっていた。
しかも、ショートSKIに付けているテックビンディングでも、
ヒールフリー(踵を固定しない)で滑って、
小さな登り返しもなんなくこなせることはすでに実証済みだ。
なんども同スタイルで入ってきた里山や北アの前山である
鍋冠山でのトレーニング経験はだてじゃねえぞ(笑)
さて、ソロラッセルと雪でかしがったいくつもの枝雪をストックで落としながら、
また、シールパーツの落とし物に戻ったりとロスしつつも、
森林限界に約6h半で到達した。
最速記録よりもすでに90分遅れていた。
ただ、以前より1h早くスタートしたことで気持ちに余裕はあった。
ここまでは、言ってみればおもに体力と根気だけでこれる前哨戦である。
ここからの、
木はなく風に叩かれた艶やかな山頂へとつながるリッヂライン(尾根)は、
街から眺めるには本当に美しいが、
ひとたび風が吹けば−40℃を優に下回る厳しい世界でもある。
幸いこの日の風は穏やかで、視界も良好、
最高のコンディションが整っていたのだが、やはり厳冬期ソロは甘くない。
トラバース(尾根上の小ピークや岩稜などを避けて通るために迂回すること)
する雪面は硬く、一歩一歩スキーアイゼンとスキーのエッヂを食い込ます。
一度バランスを崩せば真っ白な硬い急斜面は無情の滑落を黙ってみるのみで、
大ケガじゃ済まないだろう。ソロでもとくに危険なときはこんなときだ。
パートナーがいればアンザイレン(ロープで確保しあう)や、
万一滑落してもその後の対処がまだましだが、ソロではそれができない。
足のスパイクを一たびミスしたときのリカバリーは、
左右のストックではまず出来ないし、
山側にピッケルを替わりに持ったとしても、
スキーのハイクアップがぎこちなく難しい。
面倒でも、命が惜しければブーツアイゼンとピッケルスタイルに変えるか、
パートナーと来ることだ。
ミスの初動から第一次のリカバリーできる術を持たないことは、
リスク対策が希薄ということでもあるからだ。
でも、これは持論だが、
そんな超集中状態にあるときの技術は普段よりも格段にレベルが高いし、
技術や体力や知識や経験は、
装備に代わるものとしてじつはおおきく寄与していると思うのだ。
ハイクアップの技術に自信はあったが、
さすがにこの後、ウィペット(BD社のストックで、
グリップの上にピッケル機能がついたもの)を1本購入した。
森林限界以降の幾度とあったトラバースはこの日の核心だった。
これは結果論だが、
経験上ラッセルや見えない落とし穴のおおい
この東尾根や前常念から山頂への馬の背尾根は、
この日はブーツアイゼンがもっとも効率よい選択肢であった。
要するに例外をのぞいて、
スキーを履いてなくとも雪面に足が埋まらないほど
硬い絶好のコンディションであったということだ。
スタートから10h10min後の1216PM、
SHORT SKIをザックに背負ったスタイルで、
2,857mの常念岳山頂でセルフタイマーのボタンを押した。
厳冬期北アルプス山頂への到達から
SHORT SKI DOWNという未知の体験まで、
パノラマの絶景と最高の天気ということも相まって、
20分を要した。山頂からみえる自分が住む町がみえる。
あそこまで、どうしても無事に帰りたい…。
成功して、帰りに贅沢にラーメンを食って、
いつものSEIYUでプレミアムモルツを買って帰ってやろうと思った。